─────今の自分にできる精一杯の演奏をした。
ハッキリそう言い切れるくらい、今の私の全てを出し切ったピアノだった。
……だからこそ、また拒まれたら、と思うと怖い。
「前聴いたとき、こんなに上手い奴がいるんだって、驚いた。ピアノの音だって、プロだった母親と同じくらい、色んな音色を弾きこなしてたから。
……あのときの俺には、そんなふうにしか思えなかったけど」
「うん……」
「全然、違った。母親のピアノと同じだなんて全然思えなくて。弾いてるのは母親じゃない、雪岡なんだってちゃんと思ったらさ、勘違いかもしれないけど、すごく……甘く、聴こえた」
「甘く……」
思わず、水無月くんの言葉を繰り返すと、彼は照れたように視線を伏せた。
「すげー恥ずかしいこと言ってるのは分かってるんだけど。……なんていうか、それ以外に言葉が見つからないんだよ」
水無月くんの言葉に、心がふわりと温かくなる。
……今まで、カラフルな音だと言われたことはあった。
色々な音が軽やかに跳ねる、楽しそうなピアノだとも。
……だけど、甘い音、なんて。
「……初めて言われた……」