水無月くんは私の質問に答えることはせずに、「ちょっと来て」と小さな声で言い、私の手を強く掴んだ。


水無月くんの手が触れた瞬間、心が溶けてしまいそうに熱くなる。


手を掴んだまま水無月くんは足早に歩き出して、私は長いドレスのすそを踏んでしまいそうになりながらついていくのに必死だった。

会場の舞台裏から裏口をくぐり、ふわっと冷たい風に頬が触れて、いつのまにか外に出たんだと気付く。

そこで水無月くんは立ち止まり、振り返って私を見た。


繋がれた手がやけに熱く感じるのは、どうしてだろう。



「……」

しばらく、どちらも何も言わないまま時が過ぎた。

連れ出されたときは、どうして、と考える余裕もなかったけれど、だんだん頭も冷静になってきて、この状況は一体どうしたらいいのかと、急に焦りが生まれてくる。


「……み、なづきくん……?」

沈黙に耐えられなくなって呼ぶと、水無月くんがハッとしたように何度か瞬きをして私をまっすぐに瞳にうつしてきた。

……見られてる、そう思うと体温は急上昇。


「……ちゃんと聴いたよ、雪岡の演奏」

「え?えっと、ありがとう……」


水無月くんの言葉がすごく嬉しくて、だけど一方で、やっぱりまだ私の音は水無月くんにとって辛いだけなのかなぁ、と不安になる。