梨音と話している間にカフェ班のみんなはもう先に行っていたから、ひとり昇降口に向かって歩き出す。
明日はめいっぱい楽しもう、なんて、頭を占領していたわくわくとした思考がふいに途切れたのは、下駄箱から取りだしたローファーを履いたときだった。
「このみん」
不意に横から声を掛けられ反射的にそちらに顔を向けると、外から入ってきた夕日に髪も肌もオレンジ色に染めた、今野くんが立っていた。
「あれ、帰ってなかったの?」
てっきり皆と一緒に学校を出たのかと思っていた。
いつも今野くんは水無月くんと一緒にいるから、思わずきょろきょろと周りを見回して水無月くんの姿を探してしまったけれど、その仕草で今野くんはあたしの考えていることが分かったのか、
「航ならもう帰ったよ」
と、あたしが何か言う前にいつもの明るい声でそう言った。
ふーん、そうなんだ。
なんてはじめは頷いたけど。
「……ん?なんで?」
いつも駅まで一緒に帰ってなかったっけ。