♯2-side*このみ-
「じゃあ明日は頑張ろう!」
そう気合いを入れて、夕日に染まり始めた教室を後にしたのは文化祭前日のことだった。
「……あれ?梨音、帰らないの?」
可愛らしいカフェに飾り付けられた教室からぞろぞろと出ていくカフェ担当の皆の波から、ひとり逆方向に歩き出した梨音に声をかける。
すると、ふわりと優しい笑みが返ってきた。
「私、これからレッスンなんだ」
「ああーー、そっかぁ。今日もレッスンあるなんて、さすがのんちゃん」
のんちゃん、というの梨音のピアノ指導を担当している女の先生のあだ名。
いつもニコニコしている柔らかい雰囲気に生徒からの人気も高いけど、可愛い顔して容赦ないって有名なんだ。
文化祭の前日も通常どおりレッスン入れるなんて、のんちゃんくらいじゃないかな。
「このみちゃんは帰るんだよね?気を付けて帰ってね」
「うん、ありがと。梨音もレッスン頑張ってね」
お互いににっこり笑ってそんなことを言い合って、どちらともなく背中を向けた。