胸が苦しいのが、走ったせいなのかそうじゃないのかもわからなくなって、自分がいったいどこに向かっているのかも分からなくなって。


ドンッ、と強い衝撃に身体が進行方向とは逆に押し返されたことにも、一瞬一体何が起こったのか分からなかった。


「いってー」


目の前で不機嫌そうに眉を顰めた男子生徒に、私が前方不注意だったせいで思い切りぶつかってしまったんだと気付く。


「大丈夫かよ。……ちょっとあんた、こんな人混み全力疾走とか危なすぎ」


私がぶつかってしまった人と一緒だった人にさえため息を吐かれる。


ふたりとも知らない制服を着ていて、おそらく他校の生徒。



……そうだよね。いくらなんでも私、周り見えてなさすぎ……。


「ご、ごめんなさい……」


情けない気持ちで心が押しつぶされそうになりながらも、なんとか謝罪の言葉を吐き出した。


……すると。


「え、ちょっと待った。……なんかよく見たらこの子可愛いんだけど」


「え?」


さっきまで不機嫌そうな顔をしていたのに、私がぶつかってしまった男の子が急に表情を輝かせた。