自分の掌を見つめて俯いていた私は、驚いたような顔で廊下の角から現れた水無月くんに、ビクッと肩を揺らしてしまった。
……え。
やだ。
なんで……っ!
「な、なにも聞いてないですから……っ!」
俯いて、なんとか早口にそれだけ言い残し、私はくるりと水無月くんに背を向け、駆け出した。
全速力で、来た道を駆け戻る。
────聞いてない。
なにも、聞いてない。
私に向けたのとはまるで違う、優しい「ごめん」も。
久しぶりに聞いた、あの冷たい声も、私を拒絶する言葉も。
なにも、聞いてない……!
「きゃっ……!」