「え、私……」
敬語なんか使ってた……!?
言われて初めて気が付いて、思わず泣きそうな気持ちに駆られた。
……無意識にでも彼との距離を作っていたのは、やっぱり私のほうだったんだ。
「今フロアの誰かに声かけてくるから、そいつと厨房やればいいよ。俺以外なら大丈夫でしょ」
「ちょっと待っ……!」
慌てて引き止めようとして、だけど離れていく背中は立ち止まってはくれなくて。
一歩踏み出せばいいのに、まるで動き出す術を忘れてしまったかのように足が動かせない。
「水無月くん、待って……」
絞り出すような声で、ようやく言葉が声になったのは、教室をフロアと厨房にわける暗幕の向こうに水無月くんの姿が吸い込まれた後だった。
「え、ちょ!?梨音ちゃん、どうした!?」
少しして、水無月くんに頼まれたのか厨房に入ってきた坂井くんが、驚いたように私を見てそう声を上げるまで、心がギシギシと音を立てて痛んだまま、立ち尽くしていた。