ペットボトルを抱えたまま不安そうにしていた雪岡は、しかし俺の言葉にホッと息を吐いて、安堵したように笑った。


「……よかった」


呟くようにそう言い、すっ、と一歩前に出て、俺の少し前を歩きだした雪岡。



あんなに、近づきたくなかったのに。

見たくないと、関わりたくないと、思っていたのに。


……今ではそれが嘘のように嫌悪を欠片も感じないのは、自分が変わったのだろうか。



「ここですね」


立ち止まって、雪岡が紅茶の茶葉が置いてある棚を見上げた。



……あれ。



そういえば、今は雪岡が視界に入っても、目が合っても、一緒にいても、ピアノの音がしない。


……え。

一体いつから……。



「……水無月くん?」