「そうそうそう、カートな!うん!俺がとってくるから、航が梨音ちゃんと紅茶コーナー行っといて!」


「は……」


俺の返事も聞かずに、坂井はあっという間に走り去ってしまった。


「あぶねーなぁ」


危なく他の買い物客にぶつかりそうになっている坂井の後ろ姿を見て思わず呟く。


……つーかあいつ、このカゴ重すぎて持ちたくなかっただけだろ。


俺はひとつため息を吐いて、坂井が置いていった買い物カゴを再び持ち上げた。



「……私も持ちましょうか……?」


隣から、遠慮がちな声が聞こえてハッとする。


うわ、そっか、坂井がいなかったら雪岡とふたりきりなのか!

自分でも理由が分からないけど、その事実に心臓が一度大きく跳ね、それを合図にしたようにドクンドクンと鼓動が速くなる。


なんで雪岡とふたりってだけでこんな心臓暴れてんだよ。

意味わかんねーよ俺の心臓。


戸惑いながらも俺は心の中で大きく深呼吸してから、雪岡の方を見た。