控えめな口調で雪岡はそう言うと、少しだけ視線を上げて俺を見た。


こっそり見たつもりなのかもしれないが、俺がずっと雪岡を見ていたからその視線はぶつかるしかなくて。

目が合ったことに驚いたように、雪岡は何度もパチパチと瞬きを繰り返した。



「別に大丈」


「カッコつけんなよー!重いんだろ?交代で持つって」


『大丈夫』という俺の言葉を遮って、坂井は俺の手から買い物カゴを奪い取った。


「重っ!!」


「いや、だから俺持つって」


「てか、あれ持ってこようぜ。あれ……名前なんていうんだろ…、ガラガラ押すやつ」


そう言うと、坂井は床に買い物カゴを置いて、「ほら、こういうやつ」と両手で押す真似をした。


「……あー、名前出てこない。何?手押し車?」


「え、そんな古風な名前なの!?」


坂井の言葉にびっくりしたような声を上げたのは雪岡だ。


……雪岡って実はちょっと天然なのか?



「はいはい。カートな、じゃあ持ってくるからふたりは紅茶選んでて」


俺がそう言って、買い物カートが置いてあるだろうスーパーの入り口に向かおうとすると、すかさず腕を掴まれた。


坂井に。