「……じゃあ、水無月くんも気を付けて帰ってね」
パッ、と握っていた手を離した雪岡。
それから俺が角を曲がって彼女から見えなくなるまで、ずっと見送っていてくれたようだった。
自分の家に向かう道で、やっぱり心が痛かった。
だけど。
以前は心を、脳を、埋め尽くすようにハッキリ聴こえていた音が、どこかくぐもったような音に変わっていて。
今は、心が痛いと思う理由がわからなくなっていた。
……あの時。
雪岡が、俺のことをもう諦めるから、と言ったとき。
どうしてあれ以上聞きたくないと思ったんだろう。
どうして、強引に手を取るようなこと……。
「……意味わかんねー……」
雪岡と初めて向かいあったあの告白の日。
夏の終わりだったあの頃から比べたら、格段に日が短くなった。
……はぁ、と大きなため息を吐き出して。
夕焼けがあっという間に過ぎ去って、深い夜の黒に染まろうとしている空をなんとなしに見上げたのだった。