遠くで微かに聞こえる、蝉の鳴き声。
茜色に染まり始めた夕方の空を、風の赴くままに羽を泳がす赤とんぼ。
熱を含んだ風は、いつのまにか涼しいそれに変わりつつある。
そんな、夏の終わり。
傾きかけた太陽が、私たちをオレンジ色に照らしていた。
「……あの、私、1年の雪岡梨音(ゆきおか りおん)と言います」
夕陽に染まった放課後。
私はそう言って、目の前に立った男の子をまっすぐ見上げた。
サラサラの茶色っぽい髪の毛が、今は夕焼け色に染まっている。
愛嬌のある二重瞼に形のいい瞳、バランス良くパーツが配置された、整った顔立ち。
目の前に立つこの人は、私の好きな人。
……水無月航(みなづき わたる)くん。
明るくて、優しくて、いつでも笑顔で……。
そんな彼は、男女関わらず友達も多くて、人気者で。
女の子はみんな彼の、誰にも壁をつくらない雰囲気に惹かれるんだ。