「あら・・・本当にここに来たのね。円」

木々の隙間から現れた人影が冷たい微笑みを湛えながら円に問いかける。

「桜・・・か?なぜお前がここにいる?」

「随分なご挨拶ね。久しぶりに会った許嫁に対していう言葉なの?」

数年前に一度顔を合わせた程度だが、桜はとても温厚で優しい微笑みをくれる人だったはずだ。

円を見る桜の瞳には、とても黒く濁ってしまっている。