「っ、わたし…!」


言わなくては、と思った。
もう一度会える確率はゼロに等しいから、後悔なんてしたくない。
言わなかったら、ずっと後悔するだろう。

どうして長門さんがわたしを抱き締めたのかは分からない。
だけど、だけど。

埋もれゆく意識を必死に起こして、長門さんの腕を掴んだ。


「わたしっ、長門さんのことが…、」
「!」
「長門さんのことが、すっ…っ!」


最後まで言えなかったのは、長門さんのせいだった。
一瞬、唇が熱を持ったのだ。


「未来で幸せにな、…陽菜。」
「長門さんっ…!」


“未来で”
本来なら、巡り会うはずのなかった二人の結末。わたしの恋心。
そして最後に与えられたのは、ずっと名字呼びだったわたしへの、名前呼び。
長門さんに呼ばれた自分の名前は、特別に思えた。