ここで経験した全てを、覚えておこう。
忘れてはいけない。
それが、わたしにできる唯一のこと。
「…、なあ、」
ぼんやりと海を眺めていた長門さんが、声をかけてきた。
「なんでしょう?」
整った横顔に返事をする。
「…抱き締めさせてくれないか、」
「?!」
驚いて、声を出せないでいると、長門さんがこちらを向いた。
その瞳は真剣で、心臓が跳ねた。
それと同時に、わたしはこの人が好きだと改めて思った。
「…どうして、」
「理由は訊かないでくれ。今はただ、お前を抱き締めたい。」
切望するような声音だった。