学校にも警察にも連絡は入れないと、店長は言った。
母親はひたすら「ありがとうございます」と「大変すみませんでした」を繰り返し、何度も何度も頭を下げていた。
帰り際、和花ちゃんはゆっくりと椅子から立ち上がり、スタッフルームから出て行った。
その時初めて、彼女の右足の関節が一切曲がらないことを知った。
だから座ったままの謝罪だったのだと、ようやく気付いた。
「あんた、どうしてこんなことしたの!」
店から出る際に、母親は彼女にそう言った。
私はシフトも終了したので、素早く私服に着替えて店から出る。
彼女たちと、帰り道は偶然にも同じだった。
話を聞いては不味いと思い、一定の距離を取ったまま、ケータイを触りながら歩く。
陽が暮れるのが早くなってきたから、バイトの時間を少し変えようと、少しだけ思った。
「昔は、小学校の先生になるって!
それで子どもたちに沢山色んなことを教えてあげるんだって!
そんなことを言ってくれるいい子だったのに!」
和花ちゃんは、母親の声があまりに五月蠅かったのか、耳を両手で覆ってからようやく口を開いた。