「お母さん、×島小学校の先生なの?」
私が訊ねると、彼女は面倒くさそうに顔を上げて、「はい、まぁ」と力なく答えた。
店長が親に連絡を取ると言った時、あからさまに嫌そうな顔をしていたのを思い出す。
親とは折り合いが悪いのだろうか。
「小学校の先生に育ててもらったのに、コンビニで万引きなんてするんだ」
店長に言われ、彼女は故意か過失か分からないものの、ずっとブラつかせていた長い足で、机の脚を蹴った。
ローファーのつま先により机はキーンと大きな音を立て、スタッフルームは再び緊張に包まれた。
「育ててもらったっていうか、養ってもらっただけなんで」
そう言った彼女は邪魔になった前髪を耳へと掛ける。
その耳にいくつものピアスが飾られているのを見て、私はまたも息を呑んだ。
(別世界の人だ)
改めてそう思い、ソッと顔を伏せる。
「小学校の先生って忙しいから、帰って来るの超遅いし。
モンペとかいるから、よその家のガキ優先しちゃうし」
ふて腐れたようにそう言って、彼女はまた机の脚を蹴った。
彼女が寂しさを覚えているということはなんとなく伝わる。
そして、そんな彼女に対して思うことは色々とあった。
店長さえいなければ同じ歳として話をしたかった……。
そう思いながらも目を閉じる。
裏口の戸を閉め忘れたせいで、外から雨の音が聞こえていた。