「榛・・・くん」


 階段の上から顔を出した榛くんは、そのまま私の側に降りて来た。


「え?幼なじみ?」


「ああ、もういいだろう。行くぞ、美伊」


 グイっと手を繋ぐ榛くんの指先はいつもと同じで少し冷たい。


「あ・・・」


 結局、階段をどんどん上って、教室のある二階を過ぎてもその足は止まらず、屋上まで連れてこられる。


「榛くん・・・授業・・・」


 授業開始のチャイムが響く屋上で、私の声は吹きぬけた風とチャイムに消えていく。


 誰もいない屋上は意外に広くて、見晴らしは最高に良かった。


「美伊・・・・・」


 ふいに榛くんが振り返る。


 繋いだ手は榛くんの指先が触れる場所だけ冷たい。


「お前と幼なじみって事、バレたな」


 苦笑いのような笑いを浮かべて、榛くんが空を見上げた。


「あ~・・・バレちまったかぁ」


 誰に言う訳でもなく、独り言みたいに言う。


「・・・ごめん、なさい」


「何で?」


「だって、私のせいだから・・・。私があの時熱出して・・・」


「美伊のせいじゃない。それに、もう、限界なんだよ」


 指先に力が入る。


 繋いだ手をぎゅってきつく握られる。


「知らない、ふりしてていいよ・・・」


 空を見上げていた視線が私に向く。


 眼鏡のレンズに光が反射して、私から榛くんの表情は見えない。

 
 バレたくなかったんだね・・・・・幼なじみって事。


 握った手が冷えていくみたいだった。


 冷たい榛くんの指先に触れたくない。


 そこからどんどん冷たさが染み込んできて、私の心も凍ってしまいそうで。