「美伊、具合、どう?」


 夕方、プリンを持って綾がお見舞いに来てくれた。


「もう熱も下がったし、明日は学校に行けると思う」


 大好物のプリンを食べながら返事する。


「そっか、良かった」


 綾も食べながらそう言って、あのさ、と視線を向けた。


「ん?」



「美伊が熱があった日、桐生君が送ってくれたでしょ?あれ、結構、噂になってるよ」


「あ・・・そっか。でも、別に、私達、一応、幼なじみだし・・・・・」


 そう、一応。


 あの日まで話も交わさなかった、幼なじみなのかって疑わしいくらいの幼なじみ。



「一年の前田さん、あ、桐生君に告白した女子、前田 美帆って子らしいんだけど。彼女が騒いでたみたいだよ。美伊に連れて行かれたって」


「・・・連れて行かれたの、私の方なんだけど」


 ぐいぐいと、引きずられるように連れて行かれたのは私の方なのに、彼女からしてみれば、悪いのは私、なんだ。


「でも、桐生君と美伊が幼なじみって事、知ってる人、ほとんどいないんじゃない?」


 言われてみればそうかもしれない。

 
 中学が同じだった人も結構いるけど、中学の頃には今にみたいに私と榛くんの間には距離が出来ていた。


 そんな私たちが幼なじみだなんて、きっと誰も思っていないと思う。


 かと言って、私達、幼なじみなんですって言って回るのも馬鹿馬鹿しい。


「何か、面倒くさそう・・・・・」


 思わずそう呟いてしまう。


「本当、面倒くさそう。早く可愛くならないから面倒臭くなったんだよ~」


「え?何?」


 綾の言ってる意味が分からない。


「いつまでも後姿ばっかり見てるから、面倒くさい事になったって事」


「それとこれは関係ないじゃない」


「素直になれば可愛いのに・・・・・。ま、これがいい機会かもね」


 口の端をニヤッと持ち上げて、綾は笑った。



 素直にって言われたって・・・・・


 榛くんに嫌われてるって言ってるのに。


 最後のカラメルを掬い取って、口に入れた。



 甘くてほろ苦い、今の私の心の中みたいな味がした。