「わりぃ、俺いまユリとおるから。あとでな」
これでいい
これで……いいんだ
蒼は自室の壁にもたれかかって送信ボタンを押した。
ケータイの画面がひどくゆがんだ。

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   チャララ~~♪
授業合間の10分休み、特定の着信音が鳴った。
相手は……
(蒼だっ!)
1時間前におくったlineの返事がきているはずだ。
まだ見ていないが思わずにやけてしまう。
「ちょい~、小鳥~また彼氏~?」
仲良しの未来ちゃんからのからかいがはいる。
「なっ、なんでわかったの?!」
「顔、ゆるみすぎなのよアンタwww」
数Ⅰの教科書で顔を隠しながらケータイを見る。
さっきは夏休みに会う計画を立てていた。
きっとその事だろう。
高校入学と共に小鳥は家族で大阪から福岡に引っ越した。
蒼は大阪。
いわゆる遠距離恋愛。
なかなか会えないが、毎日電話とlineをしあった。
鼻歌まじりにケータイを見た小鳥はかたまった。
     「ユリとおるから。」
(ユ……………リ………………?)
ユリは同中だったヤンキーだ。
(たしか、蒼のことが好きだったはずっ)
(なんで?なんで一緒にいるの?今って学校があってるんじゃ…?)
ワケがわかれなくて、小鳥は思わずうつむいた。
教科書がバサッとおちる。
「小鳥………??」
おちた音でケータイから顔をあげた未来ちゃんが小鳥を心配そうに覗きこむ。
        ガタンッ!
小鳥は顔をみられる前に教室から出ていった。
「………………………………?」
後には心配そうな顔をした未来ちゃんだけが残った。

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いつもなら、満面の笑みでキャァキャァ言いながら蒼くんとlineをしている小鳥が、ケータイを見たとたんかたまった。
気付かれないようにケータイを見ている振りをして様子を窺う。
突然、小鳥はうつむき、教科書を落とした。
さすがに痺れをきらした未来は小鳥の顔を覗こうとした。
       ガタンッ!
思わずビクッと肩をすくめる。
小鳥は何も言わずに教室から出ていった。
(こっ小鳥!?)
呼び止めるか、追いかけるか悩んだ末に未来こ小鳥を見送ることにした。

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「はぁっ、はぁっ……」
なにも考えずに教室を飛び出してここまで来てしまった。
ここ、というのは屋上。
悲しい事があるとき、嬉しいとき、悩んでいるとき…どんなときでも小鳥は空を見ることで落ち着くことができた。
(未来ちゃん、怒ってるかな……)
未来ちゃんが心配してくれていることはわかっている。
大切な未来ちゃんだからこそ、まだよくわかりもしないことで迷惑をかけたくない。
それに蒼の言っていることがまだ信じられなかった。
(蒼が浮気するなんてありえない。きっと……ありえないことだ。)
再びゆがみかけた視野をぐっとこらえて、元に戻す。
5月の風はまだ少し冷たくて気持ちいい。
小鳥はトサッと壁にもたれかかってしゃがむと、そのまま目を閉じた。

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この2文字がついているのに小鳥からの返事はない。
いつもならすぐに返事をくれるのに。
「さびしい……………っ」
思わず本音を言ってしまい瞳が揺れる。
(なに言うてんのや。自分でひどいこと言っておって…これでええ、このまま小鳥から返事が来んであいつが俺のこと嫌いになってくれたら…)
思い返せば小鳥とは色んなことがあった。
キャンプにいったり花火を見たり、一緒にクリスマスケーキを作ったこともあったっけ。
楽しかった。
共にいる時間が長いからケンカも多かった。
「ケンカも……楽しかったな……。」