「ちょ、痛いよっ!!痛いってば…!?」

「………」

意味が分からなかった。
なんで?
どうして?
「先生」なら、歩いてるのを見たからって追いかけて来ないよ…?
血は繋がらないけど、「兄」だから体裁を守るため?
それに…なんで、あんな変な顔すんの…?
なんであんな…

それか、あたしの見間違い?
隆尚さん変だよ。



でも、一番変なのはあたしだ。


こんな状況を嬉しく思ってる。

久しぶりにあたしに向けられた声や視線が嬉しかった。


腕を掴まれて、喜んでる…

掴まれた腕から、
また…
昔抑え込んだ幼い想いが拡がりそう。

熱に侵食される。
熱が伝わりそうでこわい


―――知られたくない。



「――もうっ!!離してよっ!?」


あたしは隆尚さんの手を振り払った。

誰もいない静かな路地に声が響いた。街灯に群がる虫が時折羽音をさせている。
震え出そうな想いと一緒に掴まれていた腕を押さえた。
それを見た隆尚さんが、慌てた。


「あ…、ご、ごめんっ!!つい力入っちゃって、痛かったよね?ごめん…」

「……お家…帰るんでしょう?もう、戻ったりしないから…」

隆尚さんを追い越し前を歩いた。
少し歩いて隆尚さんが後ろをゆっくりと歩き始める音がした。


二人の靴音がズレたリズムで路地を進む。