(・・・『知っていた』、か。

あの子は一体何を知っていたのだろうか。)



王は思い出す。





『イグラム王!あたし、ついにお勉強脱出ルートを見つけましたっ!』


可憐で無邪気な、幼い少女だった頃の姫君を。






『ーーそうですね。

とりあえず・・・私の記憶を消して頂けませんか?』


暗い暗い影を瞳に宿し、少し困ったように眉尻をさげた3年前の姫君を。





(ーー今回の事に関わっているのは、エリスと茜色の髪の青年と、おそらくルネイとアイツ・・・。

アイツが関わっているのなら、姫君の記憶を戻そうとはしないだろう。

だが、問題は多いな。特に気にすべきは、その茜色の髪の青年。彼だけが身元が分かっていない。

あのエリスに乗っていた、ということはエリスの手下か、パートナーか。

・・・どちらにせよ、エリスが見込んだ青年だ。優秀であろう。)




王がそこまで考えたときーー




コンコン!


「失礼します!姫を連れ去ったと思われる青年を捕獲いたしました‼︎‼︎」



力強いノックと共に、強張った低い男の声が会議室中に響いた。


一瞬の沈黙・・・の後。

会議室中が安堵の声で溢れかえった。
それぞれがふっと肩の力を抜かし、笑みさえ浮かべている者もいる。

数名を除いて。




ガタッと席を立ったのはアスクだ。

ドアの外にいるであろう兵士に向け、厳かに命じる。


「中に入れ。」


「ご配慮、感謝致します。」



ドアを開け、丁寧に一礼した20代ぐらいのがっちりした体型の男は、これまたがっちりとした銀色の甲冑を身につけている。