ルネイはふと瞳に憂いを帯びた影を宿す。


(そもそも、一体どれくらいの人が知っているのかしら。
何も脚色されていない、純度100パーセントの“伝説”を。

わたしは、まだ、知らない・・・。
レオもおそらく、知らない。

アスク様やバース様は知っているのかしら。
エリス様は?

国王は知ってるわよね?

・・・いや、でも、もしかしたらーー



誰も、知らないのかもしれない・・・。)




その考えにまさかと胸の内で首を振りながらも、否定しきることができないことに、ルネイは気づいた。



(もし、国王さえも知らないなら・・・事態は予想以上に深刻ね。

国王さえも知らないことを、どうやって知るか、って話だもの。)





思案に沈むルネイを、かすかに目を細めて観察する男も1人ーー国王、イグラムだ。


姫君が見つからないという非常事態にも、表情は全く変わっていない。

焦りも不安も伺えない。




国王はふとホワイの方に視線を向け・・・つと苦笑を浮かべた。

この場にいる誰もが見逃したほど、その苦笑はひっそりとしていた。


(まったく。ホワイは相変わらずだな。
少しは協調性を・・・無理か。

特にこのことについては、そう願うだけ無駄だろう。)


国王は思い出す。
彼の荒げられた声を。




『なぜだ!?なぜ、姫の記憶を消す?
姫の記憶を消して、何か良いことでもあるのか?

あの子は、核心に近づいていたのに!
今はあの子だけが・・・“知っていた”のに!

あの子の努力を、涙を、なぜ無にする!?』