「…はいはい、もういいから」
期待させるだけさせて、何もない
っていうのが一番ヤダ
私は机の資料を一枚一枚丁寧に重ねると、
ユンファを睨みつけた
「つまんないね」
ユンファもそんな私から顔を背けて、ベッドに向かった
つまんないのはコッチだ
ユンファはゴソゴソと布団に潜り込むと、
「イクゥ、一時間したら起こして」
そう言った
な、なにこれ
「うん」
めちゃくちゃこそばゆいんだけど…
クラクラしながら、私は鞄から携帯を取り出した
一緒に寝るって
言ってみたらよかった
意味のわからない後悔をしながら、
こんな初対面にも近い私に、軽々しく「一緒に寝る?」と言えるユンファの軽さについての疑問を全く抱かない私は
完全にユンファをクライアントとして割り切っていた
多少はドキドキもする
でも、落胆する未来の自分の姿が見えた私は、
やっぱり相手が手の届かない存在だということをわきまえていた
私は、何だか不思議な気分のまま、携帯のメールのチェックをした
泉からメールが届いていて、
【今、SOUTHといるの?】
今にも呼べと言わんばかりの泉のメールに、
【ユンファといるよ。ユンファは寝てる】
と、返信した
本当は電話をしたい気分だったけど、そうもいかない
猛スピードで泉からメールが返ってきて
【マジで!?一緒に寝てるん!?
どういう事!?】
んなワケないやろ…
「……何してるの」
突然のユンファのその声に、
身体がビクッと揺れた
「……びっ……くりした」
完全に泉とのメールに夢中で、ユンファと一緒に寝てる場面を想像してニヤニヤしていた私は
突然の声に心臓がバクバクとなった
「………男?」
「………は?」
何?
それだけ言うと、ユンファはシーツをガバッと被ると、黙り込んだ
私はそんなユンファの姿に呆然としながら首を傾げた
一時間、か……
開いたまんまの携帯のボタンに指をあてて、暗くなっていた画面が明るくなる
時刻を確認すると、21:23と出ていた
ヨコシマな私は、ふと他のメンバーが気になった
そういえば、もうひとつの部屋ってどうなってるんだろ…
私は部屋をキョロキョロと見渡し、
グルグル巻きに眠るユンファの寝息に聞き耳をたてた
息してんのか?
というくらい部屋の中はシーンとしていて、
私はまた携帯を開いた
部屋から出るには鍵も必要だし、他のメンバーの部屋も(恐らくはこのフロアだろうけど)わからないし
寝てるだろうし
ホテルから出ても、また入る為にはユンファに迎えてもらえなければならないし
そしたら意味ないしなぁ…
充分に睡眠を取っていた私は、目がガンガンに冴えていた
…………どうしたもんか
暇だ
そんな事を考えながら、化粧室を借りようと立ち上がり、入り口付近に歩いていた時
カチャリ
と、ドアが開いた
「あ!」
ソンミンの声に、
慌てて人差し指を口にあてた
ベタだ…
「ユンファ、寝てるの?」
可愛い顔で、首を傾げる姿に
タイプではないけど、胸がキュンとなる
さすがトップアイドルだよな…
「…うん、一時間したら、起こせって」
「…え?そうなの!?」
驚いた様な顔で、ソンミンが言った
何で?
「辻元さん、アッチの部屋、来る?」
その願ってもないソンミンの申し出に、
何っ!
行く行く!!!!
と、心が躍ったけれど
「……今度にする」
私は本心を飲み込んだ
遊びに来てるならまだしも、仕事で来てるわけだし
更には、最初はいいかもしれないけど
あとあと何か面倒くさそうだ…
と思った
とりあえずはユンファを起こさなきゃいけないし
また、ムスッとしそうだしな……
割と面倒臭がり屋な私は、そのままコソコソとソンミンと立ち話をしていた
「何やってんの?」
ソンミンの背後から、ニョキッとジョンミンの顔が出てきた
「「……………」」
一瞬、私とソンミンは無言になって妙な間があいた
「ユンファが寝ちゃったんだって」
ソンミンが背後のジョンミンに耳打ちをした
「えっ!?」
ジョンミンもまた、先ほどのソンミンと同じ様に驚いて目をまるくした
私はそんな様子を
気が付けばボケーッと眺めていた
テレビで見るよりも、凄く華奢であどけない顔のソンミンは、子供みたいに無邪気に話すけど、時折背伸びがちに話す
ジョンミンは、見れば見るほどに透き通る肌が、
この世のモノには見えないくらいに妖艶で、色っぽい
女の子以上に美しくて、
そしてとてもカッコイイ
そして何だか胡散臭い
「今日、ユンファずっと眠そうだったもんね」
ジョンミンが笑いながら言った
「え?少し寝たって言ってたんですけど?」
私は首を傾げて言った
「寝てないよ?ずっと機嫌悪そうに、携帯ばっかり見てたけど…?」
ジョンミンがソンミンの顔を見て、ねぇ?と確認していた
あ…………
まさか私?
なわけないか