「イクゥ、その話し方、普通に出来ない?」
「………え?」
相変わらず突然に話が変わるユンファ
「……別に、普通でいい」
普通………って
「……いいの?」
フンッと鼻息が出そうなくらい、頭を縦にふるユンファに
「…じゃあ、お言葉に甘えるね」
そうニッコリと微笑んでみた
「………あ」
そして、嫌な顔を思い出した
牧田のオバサン(といっても、恐らくは私とさほど歳は変わらないだろう)
「牧田さんの前では、敬語つかった方が良くない?」
私が悪戯にそう言うと、
「アー、マキは、そうかも」
マキって、名字なのに、やたらにカンに障るのは何故だろう
「じゃ、そういう事で、仕事仕事」
チンタラしてたら、30分も経っちゃったよ
「……イクゥ」
やっと私がやる気になっていたのに、ユンファが私の名前を呼んだ
まだ何か!?
「んっ!?」
半ば面倒くさそうに、返事をする
「イクゥ、は、結構海外に行ってる?」
ユンファの話は唐突すぎる上に、あいまいすぎて何を言ってるのかわからない
「前は行ってたよ。会社が香港にあったからね
二カ月に一回は、行ってたけど…」
海外、って言っても、飛行機で三時間なんて、国内移動してるようなもんだけどね
「………」
私の話に、また黙り込んだユンファが、
「そう」
そうとだけ言って、資料をまた見はじめた
…………へ?そんだけ?
だから何を言いたいのかが、意味わからんねんてば
聞き返そうかと思ったけれど、何だか面倒くさくて止めた
きっとまた話したくなるだろうから、そっとしておけばいい
と、この時はそう思った
目の前で真剣に打ち込んでいそうに見えたユンファに、
私は嬉しくて
今回練り直した(練り直すもなにも、こんなに提案していいと思っていなかった為、嬉しくて急いで今回のアルバムに合わせてイメージを作った)資料について、興奮気味に説明する
「今回のツアーって、来月に出るアルバムの曲でしょ
こういうイメージが、いいかと思うんだけど」
私は
【Royal Classic】
という、テーマで簡単にまとめた資料をピラリと開いた
「オープニングからはミニタリーテイストを出して、中盤のバラードでクラシカルなイメージ
その後、サウスらしいカジュアルに落としたトレンドを上品に混ぜて、
最後、トラッドな上質なスーツスタイルで
アンコールは、アメリカントラッドで……」
私がすっかり夢中に説明していると、
「ちょ、待って、イクゥ」
焦ったようにユンファが私の手に触れ、
私を制止した
急に触れた指先に、ドキッとして手が揺れた
「…………」
あまりにも私が動揺したのを目にして、ユンファの表情が曇った
「……ご、ごめん…びっくりしたから」
言い訳みたいに私が言うと
「イクゥ、もう少し、わかるように話してくれないと、わからない」
陰った表情のまま、ユンファが私を見て言った
「…あ、そっか…ごめん」
私は興奮しすぎて、早口で話しすぎていたことと、専門的すぎたプレゼンじみた説明がユンファに伝わりづらかった事に気付かなかった
「…いや、別にいい」
少し瞼を重そうに、瞬きを繰り返すユンファに、
「………もしかして、眠いの?」
私はたくさん寝ているから元気いっぱいだけど、
やっぱり全然寝てないんじゃ…
そんな心配が頭を過ぎる
「…眠くない」
やっぱりムスッとして言い返された
………嘘だ。
スッゴく眠そうにしか見えませんけど
「ちょっと寝たら?
私なら、待ってるよ?」
今日はさすがに寝坊もしない自信、あるし
「…いい」
頑なに首を横にふるユンファを見てると、だんだんとイライラとしてきた
「…いいから!」
きつめに言い放ってしまった
「……………」
キョトンとした顔で、ユンファが私を見た
……………しまった
「イクゥ、可愛くない」
何だか子供がお母さんに怒られたみたいな顔でユンファが呟く
「…いいやろ別に」
ユンファの「可愛くない」にはもう慣れた
「アー、うん」
ユンファはそう相槌を返すと、大きくあくびをした
「ほら、やっぱり眠いんでしょ
無理しないで、仮眠取ったら?」
というか、寝て下さい
「…………襲う気?」
私の顔を見て、ユンファが極上の笑顔で私を見た
「は?」
………何故バレた……って
そんな訳あるか!(ないとも言えない)
「イクゥ、一緒に寝たいの?」
勝ち気な笑みを浮かべるユンファに、
クラクラしそうになる
悪戯な顔が、妙に色気づいていて、腹が立つ
「……………寝る!!」
と、言ってみたい