あんまりにも真剣に資料を見てる姿を目の前にしたら、私も嬉しくなって、ユンファの反応を伺っていた
険しい顔が、ゆっくりと解れていく
「これ、とか」
そうつぶやきながら、デザインを仕分けしていく
「イメージとか、写真の切り抜きとかで渡してくれたら、コラージュするよ?」
私がそう言うと
「………!」
びっくりしたみたいにユンファが顔を上げた
………な、何?
「いっぱい、ある」
そう子供っぽい顔をすると、ユンファは立ち上がってベッド脇にあったスーツケースから、B4封筒がパンパンになったモノを三つ持って来た
「……いつも、こういう打ち合わせしてるの?」
私が不思議そうに問い掛けると
「いつも、じゃない」
「じゃあ、どうしてその資料持ってるの?」
「………」
ユンファは黙り込んだまま、私にその資料を手渡した
「…見ていい?」
「その為に渡したんだろ」
ちょっと照れ臭そうに、視線をずらしたユンファに、私はクスッと笑って中身を見た
色んな写真の切り抜きが、無造作に封筒に入っていて、抜き出せばパラパラと中身が落ちた
私はそれらを丁寧にテーブルに並べ、ゆっくりと一つ一つチェックした
…………これ
全てじゃなくて、まだ、ほんの少しだけしか見てないけど、ユンファのイメージファイルの中身に
私が今回提出したものと似たものがあった
……………まさか
「他にも、イロイロあって、相談したい」
キラキラと輝くユンファの瞳に、吸い込まれそうになりながらも
私はこの時から、この面倒臭い男の
虜になってしまっていたんだと思う
あれだコレだとしているうちに、すっかり窓から明るい光が入ってきていた
「あ………」
時計に気付いた私が、ユンファの方を見た
「もう、六時半だけど…」
私のその声に、ガバッと時計に身体ごと向けるユンファ
「………イクゥ」
向こう向いたまんまのユンファの背中を朦朧と見つめながら、
「何~?」
あくびをしながら、返事を返した
「………明日も、来て」
………………えええっ
「……明日、も……」
思いっきり嫌そうな声でそう呟くと、
「………」
ションボリとさえしているように見えるユンファに
胸がズキンと痛んだ
「………い、いいけど」
私の心を許したその返事に、
「よし!じゃあ、20分だけ寝るか!」
ご機嫌そうに、ユンファはそう言うとベッドに飛び込んだ
ほんと、子供みたい…
私はそんなユンファを見て溜息をつくと、荷物を片付けて、
「じゃあ、また時間あいたら、電話してください」
そう言って、部屋を出ようとした
「待って」
寝転んだまんま、ユンファがそう言った
私も既に眠気のピークで、頭が朦朧としていた
「まだ、何か?」
私がイライラとしながらそう返事すると
「相変わらず可愛くないな」
ユンファがまた不機嫌そうに言った
いやいや、アンタ布団あるけど
こっちは今から帰らなきゃいけないんでね
「眠いから、帰りたいの
用がないなら帰るから」
そう眠気からくるイライラを軽くユンファにぶつける
「じゃあ、ここで寝れば?」
ポンポンとユンファが自分のベッドマットを叩いて言った
「………………は?」
冗談は顔だけにしてよ
「………結構です…」
なんの冗談か知らないけど、
SOUTHのメンバーと一緒に寝れる訳なんかない…………
って
「えええっ!?」
眠気が一気に吹き飛ぶ
「………誰が起こすんだよ」
ムスッとしてるユンファに、
「いや、外にSPいてるじゃないですか
他のメンバーだっているじゃない」
牧田のオバハンもいるんじゃないの?
「じゃ、20分したら起こして」
無茶苦茶を言うユンファに、
「ちょ…っ、私も眠いし、何なら起こす自信ないくらい
眠くて無理です!」
とかいいながら、突然の事に、ギンギンに冴えてますけどね
「……じゃ、いいよ」
そういって布団をズッポリと被った姿に、
また胸が軋む
ああ~っ、もう!
「20分後、起こして起きなかったら、
…………帰るから!」
そういって、またソファに腰をおろした
ユンファの眠るベッドのほうからスースーと寝息が聞こえる
「……………」
ね、眠っ……
私は睡魔と戦いながらも、ソファにうなだれる
あと………何分、だったっけ……
………ええっと……
身体が浮いてるみたいに気持ちがいい
そうそう、会議中とか、眠いのを我慢してる時とか、一番気持ちいいんだよね
眠りと現実の狭間をいったりきたりして
ユラユラと揺れる
フワフワとしながら、私は時計を確認する
あと、………?
ん?
薄目に瞳をひらくと、私はベッドの中にいた
………………?
直ぐには状況を把握できなくて、目を擦りながら、布団にくるまった身体をゴソゴソと出す
…………え?
全部……夢……だった?
……………なわけない!!
ガバッと一気に身体を起き上がらせて、部屋の中を見回す
「…………っ!」
何処からどうみても、そこは今朝やって来たホテルの一室で、自分の部屋じゃあない
すっかり明るくなって、窓のカーテンの隙間からサンサンと降り注ぐ太陽の光に、真っ青になった
まさか…寝てた……
慌ててベッド脇の時計を見ると、
11時45分とデジタルが表示していた
「………最悪」
当たり前のように、部屋には誰もいなくて
私はしばらくの間、放心状態だった
やらかした…………
後悔なんて、する暇も
考える余裕も全くない
心臓が高鳴り、ドクドクと血流が唸りをあげている
落ち着かないまま、鞄のあるソファに駆け出し、携帯を取り出す
勢いよくユンファにかけようとした指を、発信ボタンにあてようとした
その時
テーブルの上のメモが目に入った
イワへ
XXXX.XXX@XX~
イワ?
イクってことか…
笑う余裕もない
ユンファのメモに書かれたアドレスを見て、何だかまた違うドキドキが止まらない
………
紙を握りしめ、そのままソファに座り込んだ
……………ん?
私、ソファで寝てなかったっけ?
顔がだんだんとニヤけてきて、
まさか……
とか色々と想像してみる
いや、まさかじゃない
「ユンファが…運んでくれたんだ……」
私を、ベッドまで。