「……いや、……なんでも…」


これは……





「イクゥ」


相変わらずしかめっつらのまま、ユンファが私の名前を口にする



「…………」

ゴクッと生唾を飲み込む





………何!?



何する気!?(嬉)





「こっち来いよ?」




きゃああぁ




行く行く、行きます





「…早く打ち合わせ終わらせて、寝たいんだよ」


ユンファのピシャリと真面目な一言に

がっくりと肩が落ちた




私、仕事に来たんでした




「…………はい」




「早く」

せかすように言うユンファに、何故か睨み返しながら、私はユンファの座る窓際のソファの正面に腰掛けた


持って来た資料を机に並べていると



「イクゥは、SOUTHのイメージ、何故これだと思ったの?」



「………え?」


イメージ、っていうか…



「…イメージは……してないですよ…」



そう告げると、ユンファは少しはにかんで



「……ふぅん」


そう笑った






…………笑った!!



「…何か、いつも衣装、あんまり好きくなくて

こういうイメージのほうが、もっと格好いいかな、って」


急いで有り生地で仕立てた洋服や、
ちょっとそこらで買ったようなチープなものより、


もっと作り込んだ仕立てのいいものをテーマに合わせてトレンドを織り交ぜたほうが、いいって思ってデザインをいくつもカテゴリーに分けて書いた



「……」



黙るユンファの顔に、いつの間にか目がくぎ付けになっていて、

時間が止まったみたいに



静かな空気が心地好い





真剣な顔でデザインを見ているユンファを
じっと見つめる


綺麗な輪郭に、長い睫毛


指先もすごく綺麗で、何だか自分が恥ずかしくなる



サラサラとした髪が、柔らかそうに揺れる





…………ここ、何処だっけか…?





すっかり二人の世界?に惑わされていた

その瞬間




ガチャッ!!
ガチャッ!!


「ちょっと!兄さん!!!
どうして鍵しめてるの!!」


ソンミンの声が入口で響いていた







………………うざっ






何となくソンミンの性格だけは理解出来るようになって来た気がする…




「…………」

「…………」


二人とも、黙ったまま目を合わせる




「……うっせぇ…」


やっぱり不機嫌になったユンファが、入口に向かって歩いて行った




何となく、いい感じに仕事はかどりそうだったのに!


ソンミンめ!!!



無邪気に可愛いにも限度がある!!



「もう~!僕らも混ぜてよ!」


ヘラヘラと笑うソンミンの後ろに、メンバーが勢揃いしていた




ハンパない圧迫感




部屋せまっ!!!




お世辞にも広いとはいえないツインデラックスの部屋に、SOUTHの背丈のあるメンバーが揃うと、息をするのも苦労しそうなほどの圧力を感じた





ソンミンやユンファだけならず、


皆のリラックスした風貌にクラクラとした





………仕事に、ならないだろ…

これ



「やっぱりスタイリストもお願いしたら?」


ジョンヒョンのその言葉に、


「うん、そう思うよね」

ジョンミンも相槌をうつ




皆の思惑なんて、全く知らない私は、


嬉しくてワクワクとしていた



無職から脱出


だけならず、新しい分野での仕事は、とても魅力的だ


キャリアはないから不安だけど、そういう苦境を打開する仕事も、やり甲斐があって嫌いじゃない




「…また、マキちゃん、はんにゃだよ~」

ソンミンのその一言で、あのムナクソ悪い牧田さんの顔が浮かんだ





あの人、どうしてマネージャーなんだ






「ユンファ、ネチネチとした女の子、苦手だもんね」


シウォンのその一言に、ピクンと耳が反応した



何?何ですと?




「俺は好きだけどな~、ネチネチとした子」

ハハッと笑いながら返すジョンヒョンに、
身体が何かを感じ取った



彼には絶対に近付かないほうが良さそうだ


何だか本物の香りがする…


「うん~

ネチネチは行き過ぎだけど~(笑)まぁ、嫌いじゃないかなぁ


後々面倒なのは嫌だけどね~」

綺麗な顔をして悪魔みたいな事をジョンミンが言った







これが………素のSOUTHですね


わかります






危ない危ない


何か、大切なものを見失うところだった


この人達は、アイドルなんだ



テレビでしか見てない部分以外のものが、ここにはある


そして…



「お前ら、仕事する気ないんなら出てけ」



忘れてはいけない、テレビでは全く見る事が出来ないNo.1
素のユンファ様が

きつくメンバーにカツを入れる




ほんっとに別人すぎ






軽く笑いながら戯れるメンバーと


しかめっつらで罵声を飛ばすユンファ




それを見て、藤堂さんの言葉を思い出した










もしかして、ユンファは本当にメンバーで一番、
SOUTHの事、真剣なのかもしれない…


朝方に私みたいなのを呼び付けて、真剣に打ち合わせをする

仕事の話となれば、ガラッと人が変わったみたいに
私の話を聞いてくれる

茶化す事もせず、真っすぐに…






他のメンバーが真剣じゃない、って言う訳じゃなくて…



「ある程度、決めてから意見合わせようよ

今話しても、時間かかるでしょ?兄さん」


冷静なジョンヒョンの一言に、


「ええ~」

不服そうにソンミンが答えた



「お前はとにかく黙って寝てろ


無理なら向こうで寝ろ」

ユンファの容赦ない言葉に


「やだよ!補助ベッドは!!狭いし、小さい!!」


そう叫ぶソンミン



だろうな…一番大きいもんな……



「ジョンミンのベッドに入らせてもらえ」


「やだよ」

ユンファの言葉に速攻で返すジョンミン




「…………あの」



いたたまれなくなって、私が口をひらいた






先ほどまでの活気が、一気に静まった






私に集まる視線





「……とりあえず、打ち合わせしないと…



明るくなって来ちゃったし……」


うっすらと明るくなっていた窓を指さし、私が言った


私は仕事ないけど、SOUTHは今日もきっと
大忙しなんでしょ?



「……やばっ!7時集合だよ!」

ソンミンのその声に、





…………し、7時!?




「今日は兄さんに任せて、寝よう」


ジョンミンがそう言って、


「辻元さん、後は宜しくね」


皆の背中を押して、去っていった



ソンミンが補助ベッドが嫌だ嫌だと叫んでいたけど、ドアが閉まってその声も小さく廊下で響いていた






……………嵐が去った…






私は少しため息をつくと、ゆっくりとソファに戻った



何か、何もしてないのに疲れたな……




ふとユンファを見ると、ケロッとした顔で、また資料を眺めていた




「……寝なくて、大丈夫ですか?」


心配になって、そう問い掛けてみた




「…ん、別に」


あ、そうですか




相変わらず無愛想なユンファに、いい加減慣れて来た


ハイハイ、心配ご無用でしたか
すいません