いつもと変わらぬ昼下がりの城下町。いつも待ち合わせをする喫茶店で、ハーブティを飲みながら、彼はサラリと私に告げた。
「ロシェ、僕と結婚してくれないか?」
付き合い始めて二年になるから、そろそろかなとは思っていた。だからそれほど驚いたりもせず、私は彼を見つめて小さく頷く。
「うん」
彼はホッとしたように笑顔をほころばせて、テーブル越しに私の手を握った。
「よかった。じゃあ明日、僕の家族に会ってくれる?」
「いいよ」
「朝、迎えに行くから一緒に王宮へ行こう」
はい? 何しに王宮へ? ていうか、私ごときが気軽に行ってもいい場所じゃないと思うんだけど。
首を傾げる私に顔を近づけて、彼がコソコソと耳打ちする。
「まだ誰にも内緒だよ。実は僕ね、この国の王子なんだ」
はい——っ!?
「王子!?」
思わず手を振りほどいて立ち上がった私を、彼は周りを見回しながらなだめる。
「声が大きいよ。とりあえず落ち着いて」
落ち着けるかっての!
けれどさすがに、チラチラと送られる視線が気になって、私は渋々座り直した。
「驚かせてごめんね」
まったく悪びれた様子もなくニコニコと笑う彼を、私はまじまじと見つめる。