人形は大きな目を一層見開いた。
「・・・起きていたの?」
「そうさ。僕に毎晩贈り物をくれたのは君だったんだね」
人形師はベッドから立ち上がって、人形のもとへと近づこうとした。

「こっちへ来ないで!」
悲鳴にも似た声で人形が叫んだ。人形師は立ちすくんだ。
「私たちは、『にんげん』に見られたら二度と動くことができなくなるの・・・。ほら、もう足が動かなくなってきたわ」
人形は悲しそうにそう言った。

「もっと貴方を見ていたかった。その目に映ることがなくとも、私は貴方が安らかに眠っている姿を見るだけで満たされていたの。・・・けれど、もう私は止まってしまうわ」
人形が横に傾いた。人形師は咄嗟にそれを抱きかかえた。人形の冷たい感触と、それなりの重量が、このひと時が夢でないことを肯定した。
「だけど、少し嬉しくもあるの。長い睫毛で縁どられた瞳に、私を映してくれたから。ああ、貴方も私と同じ色をしている。・・・サファイアのような・・・輝く蒼の・・・瞳」

「ごめん・・・」
少しずつ、音を発さなくなる人形を抱きすくめた。
「どうか・・・謝らないで・・・ありがとう」

私に恋を教えてくれて。


 人形はそれきり、言葉を発さなかった。人形師と同じ色の、蒼くきらめく瞳から、涙が一すじ伝っていた。