「あのさ、合宿終わってから、また家空けることになる…んだ…」


オレの顔を見ていたマナカは、一瞬目を落とし、また戻す


「うん…」


「それがさ…海…外なんだ…けど…」


「え…海外…?」


マナカの瞳が大きくなり、視線が足元に移った
下を向く睫毛が揺れて…


「うん…韓国と台湾と香港…」


「3か国?! で、どれくらいなの?」


眉が少し下がり、足元に移った視線のまま、オレに尋ねる


「1週間くらい、って聞いてる」


「そう…なんだ…」


明らかに、マナカの様子は、さっきと違う…
そりゃ、そうだろうな
2週間も離れて、その上、いきなり海外だもんな…


「………」


「………」


たぶん…

恐らく…

マナカは、マナカ自身の気持ちを整理して落ち着かせてるんだろう
辛い時、苦しい時ほど、涙をガマンする
そんなマナカだとわかってるから、オレも、それ以上言葉が出なかった…


「うん…一週間だね、わかった!」

俯いていた顔をしっかりと上げ、オレの目を捉える


「潤、お仕事、頑張ってきてね!

スゴいよね!海外なんて!
日本だけじゃなくて、海外にもファンがいる潤を独り占め出来る私って、またまたスゴくない?
幸せ、って思わないとね!」


「マナカ…」


強がっているのかもしれない、
本当の気持ちは、行って欲しくないのかもしれない…

でも、一週間しっかり仕事して
向こうで結果を出せば、マナカもきっと喜んでくれるはず


「おう!頑張ってくるからな!」


「うん、待ってるからね」

とびきりの笑顔をオレに向けた時
ちょうど、電車がホームに入ってくる放送が流れた

ホームに停まった電車に乗り込み
出入り口に立ち、座席に行かず出発のベルが鳴るまでマナカはオレを見ていた


そして…

ベルが鳴り、ドアが閉まる
電車が走りだし、マナカが見えなくなるまで手を振った



マナカの笑顔の下の気持ちをもっと汲みとっておけば…
この時のことを、後悔する出来事がオレを待っていた…