生物の授業を終え、何やら用があるらしい紗英に置いていかれた私は、一人で教室に向かっていた。

友達が他にいないわけじゃないんだけど、そこまで仲も良くない人たちの輪に加われるほど、私は社交的じゃない。


「あ、もうホームルームか」


なんて私の独り言は、静かな廊下に響き渡って少し虚しさを感じた。

でもそれは、聞こえた足音によってかき消された。


「二年六組、如月小陽さん?」


聞き慣れない声がして、少しびっくりしたけど、私は足を止めなかった。

だって私にはあの子が待ってる。


「ちょ、ちょっと!聞きなさいよ!」

「一応聞いてます」

「た、立ち止まりなさいよ!」

「急いでるんで」

「え、あ、そうなの?じゃあしかたないわね…ってちがうでしょ!」


見事なノリツッコミだ。
感心した私は足を止めて振り返った。


「近くで見ると更に綺麗な顔……じゃなくて…用事って何よ?」

「…次、ホームルームですよ?」

「知ってるわよ」

「それに、私は待たせてるんです」

「……誰を?」

「コーヒー牛乳です」

「………」