「あ・・・・・・、す、すまない」
親父は我にかえると、あわてておれを起きあがらせた。その腕は、小刻みに震えていた。


「しかし、どうやってあのケースを開けたんだ?あれを開くには、指紋の照合とパスワード入力が必要なのに」
親父が黒いケースを指差して聞いた。おれは、涙をふきながら答えた。
「わからないよう。だって、勝手に開いたんだもん」
「勝手に・・・・・・、だと?」


親父は黒いケースの中の、赤い豆腐をにらんでつぶやいた。


「まさか、TF細胞がこの子を・・・・・・、勇一郎を選んだというのか?しかし、よりにもよってなぜ!?・・・・・・なぜこの子なんだっ!!!」
親父は両手で顔をおおうと、暗いうめき声をあげた。


おれには何を言っているのかよくわからなかったが、自分がとんでもないことをしてしまったらしいということは、なんとなく感じた。



翌日から、物置のあの床の蓋には、厳重に鍵がかけられ、入れなくなった。


そしてその後、おれは一週間に一度、食事のあとに青い錠剤を飲まされるようになった。親父とおふくろは、アレルギーの薬だと言っていた。おれは素直に飲み続けた。





・・・・・・そう、いま思えば、あれが全ての始まりだったんだ。