餅は顔をあげた。
「本当、ですか?」
「ああ、おれ、戦うよ」
拳を握る。手にかいた汗がすごい。足が震えている。
ぎりぎりで、本当にぎりぎりのところで、弱い心を抑えることができた。
昨日までのおれだったら、さっき考えたように、とっくに逃げだしていただろう。
しかし、いまのおれは知ってしまっていた。
父を、母を、弟を、
大事な人を失う悲しみを、苦しみを知ってしまっていた。
もし、シダバーをほうっておいて逃げたら、おれの友人、仕事仲間、そしてしずかちゃんといった、他の大事な人達の命も、危険にさらされるかもしれない。
それを想像すると、逃げることができなくなっていた。
怖いけど、心臓が壊れそうなくらい怖いけど、逃げられなかった。
「おれ、シダバーと、戦うよ」
今度は強く言った。
「・・・・・・ありがとうございます!」
餅は立ち上がると、おれの手を強く握って頭をさげた。