「逃げるな!ちくしょう!逃げるんじゃねえっ!!」
必死で見回したが、クモシダバーの姿は見えない。気配も感じない。


くそ。やばい。
あいつを殺さないと、かゆみが止まらない。
苦しみがおさまらない。
心臓が暴走したかのように激しく高鳴っている。


苦しい。
苦しい。
何なのだこの苦しみは?
何か大切なものを無くしたかのような喪失感。
何を失ったのか?
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あれ?おかしい?
何を失ったのか思い出せない。
大事な存在だった。かけがえのない存在だったのだ。それを失って、おれは今、苦しんでいるはずなのだ。
なのに、思い出せない。頭に浮かばない。


おれは怖くなった。
もう一度記憶を探ろうとすると、またかゆみが強くなってきた。思考が止まる。
まず、このかゆみをどうにかしないと。
そのためには、あいつを殺さないと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・あいつって誰だ?


おれは愕然とした。
ついさっきまで、目の前にいた奴のことを思い出せなくなっているのだ。
おかしい。
変化した体だけではなく、頭の中も何かおかしくなってしまっている。


何かに蝕まれている。そんな気がした。