「おい、あそこに誰かいるぞ」
親父が隣の家の屋根を指差した。
「え?」
おれは上を向いた。


隣の家の屋根に、ひとりの女が立っていた。


裸だった。


月明かりに照らされて、白い肌、形のいい乳房が朧気に見える。顔はちょうど影に隠れていて、ここからだと確認できなかった。


おれと親父は、しばらくの間、無言でその女を見上げた。


女はこちらに気付くと、屋根から飛び降りて、おれ達の前にふわりと立った。
おれと親父は、揃って悲鳴をあげた。




その女の顔は、蜘蛛だった。




人の頭ほどの大きさの、茶色の蜘蛛が首から生えていて、繊毛の多い八本の足を、カサカサと動かしていたのだ。