軽くペンを回しながら、俺を意地悪そうな笑顔で見つめる。
内山先生のその無駄に余裕な態度にも、ものすごく腹が立つ。
「……いいや。後で聞く。レントゲン、さっさと行ってきな」
先生はそう言って、慣れた手つきで椅子をくるんと回して立ち上がり、カーテンの向こうに消えていった。
その診察室の机には、さっき軽々しく先生の手で回されていたペンだけが取り残されていて。
「……何なんだよ、一体……」
そのペンだけに、今の怒りを、心の中でぶつけた。
今の俺は……親父みたいだ。
「藤堂さん」
待っている看護師の呼びかけにも答えず。
不意に、自分の足元に目が行った。
すると……
…震えてる――。
……何なんだよ、一体!
本当に、何なんだよあの医者!
何がしたいんだよ!
「藤堂さん。レントゲン室の先生が待ってます。早く行きましょう」
2度目の看護師の呼びかけにハッと我に返った。
ちょっと苛立っている声のような気も……しなかったではない。
「あ……すみません。はい……」
親父からの遺伝だろうか。
怒りが治まらない。
何にでも怒りが治まらない。何にでも苛立ちを持っているタイプ。
それだけは絶対似たくなかったけど……。
やっぱり、親子は似るんだな。
でも、一つだけ、親父に全く似てない部分がある。
それは……
“臆病な心”……だ。
親父みたいに何もかも自分の言いたいように言える性格だったら。
似たくないところは似ていて、似てて欲しいところは似ていない。
レントゲン室までの廊下を歩きながら、俺の運命を呪った。