午前中の屋上庭園には、他に誰もいなかった。



 見舞いの面会は午後一時からで、午前中の病棟は検査や入浴、医師の回診など、治療に当てられる時間だからだ。




 先月まで咲いていた向日葵や、ベンチに陰を作っていたヘチマや朝顔は、もうなかった。




 「秋晴れですね」


 鰯雲の空を、トンボが横切った。




 「空がたかいなぁ、やい」


 語尾に、やい、と付けるのは江戸っ子の私の祖父と同じだった。