「あ、あの~」
「ん? なに?」
「帰らないん、ですか…?」
顎に手をやりながらカレンダーを眺めているリズシアは、由希の言葉に笑顔で振り返り一言…「うん、帰らない」と言ってのけた。
これには由希も目が点になってしまった。
(え、帰るじゃなくて帰らないの? 自己紹介しに来たんじゃないの? まだ自己紹介でも残ってたりするの?)
言葉を失った由希に対し、リズシアは気にする様子もなく机の上に腰を下ろし、一体何処から取り出したのか赤い液体の入ったグラスを持ち口元に持って行った。
その姿をじっと見ている由希に気付いたのか、リズシアは…
「これね、血なんだよ?」
ペロリと唇を舐め赤い舌を見せたリズシアに、由希は驚き騒ぎながら壁に背が付く程後退った。
その驚き方が予想以上だったのか、ぷっと吹き出した後お腹を抱えて大笑い。
「血な訳ないじゃん! ぷっ、くくっ。ワインだよ、ただのワインっ」
「そ、そうなんですか…」
「そっ、でもまぁー…血の方がいいんだけど」
ぼそりと呟かれた言葉に由希は聞かなかったことにしたが、それが良かったのか良くなかったのかは、分からない。