突然の登場に驚き身体を起こしベッドに座り直した由希の行動に、その人物は可笑しそうに笑っている。


「何もそんなに慌てなくて良いのに」

「な、なんで此処に…! い、いいいつから?!」


「ん? 今」と当たり前の様に告げた男に、由希は口を開け閉めして後退る。

あの時の様に黒いマントを着て、長いその髪を弄りながら微笑しているその男。

黒い髪は太陽の光で艶やかに輝き、由希を見つめる瞳はあの時よりも明るい赤であった。


「いやー実はさ、あの時俺自己紹介もしないで帰っちゃったでしょ? 帰ってから気付いてさあ、だから自己紹介しに来たんだよねっ」


参った参ったと髪を掻き上げる仕草をしたその男の顔は、由希の瞳には全く困ったと思っている様には映らなかった。


「改めまして、ヴァンパイアのリズシア・クレーク。どうぞお見知りおきを」

「は、はあ…?」


優雅にお辞儀をするリズシアに、由希は困惑しつつも釣られて頭を下げてしまったのだった。

自己紹介を終えて帰るだろうと思っていた由希は、何時まで経っても帰る気配を見せないリズシアに首を傾げた。