妖しく赤い瞳を光らせながら、喉の奥で笑いを噛み締めつつ言い出すその男は、恍惚な表情で両手を広げた。


「そしてその高貴な存在に選ばれたのが……荒川凌空、キミだよ」

「だ、だからアンタ、何言って…」


唇に弧を描き、赤い瞳を細めるその男に、凌空は何故か冷や汗をかき始め、血色のよかった顔はみるみる内に青ざめて行き、体が震えていた。


「り、凌空…?」


様子の変わった凌空に、由希は不思議そうに小刻みに震えている凌空の腕に触れ、顔を覗き込もうとする。


「っ、な、なんだ…これ…!」


凌空は自らの体を掻き抱き、何が起きているのか理解しようとする。しかし震えは止まらず呼吸まで浅くなり始め、開かれた瞳は左右に小刻みに揺れ動き、瞳孔が開いたり閉じたりを繰り返す。

そんな凌空の姿を見て、あの男だけが…


「ようやく…始まった――」


満足そうに微笑んでいた。