(前っていつのだろ?)
首を傾げる由希にその男は、特に何を言う訳でもなく、長い髪を靡かせながら部屋の中を興味深そうに見て回っている。
壁に貼ってある子犬のカレンダーを見たり、台の上に置いてある写真立てをジロジロ見たり等。
由希は自分が言った言葉を思い出そうと、こめかみの部分をトントンと叩く仕草をする。
(泥棒じゃなかったし、後なんて言ったんだっけ?)
(親戚…は有り得ないし、その前に親戚なんて言ってなかった)
眉を寄せ考え込んだ由希の脳裏に、ある一つの言葉が浮かんだ。
凌空はなんだそれと言っていた言葉。
それは――
「ヴァンパイア」
それしか、由希には思い付かなかった。