あの時の男が、あの時の姿のまま、此処にいる。

それが、凌空には不思議でならなかった。


「思い出してくれて良かったよ。一々説明するのも面倒だしさ。あっ、でも…桜木由希には酷だったかな?」

「え……」


あの男の言葉に、凌空は隣にいる由希を恐る恐る見る。

頭の中に流れて来た映像に驚き声を上げていた凌空の一方で、終始静かだった由希。

驚きと頭が混乱していた為、凌空は男に言われるまで気付く事が出来なかった。

確かな、異変に……。


「い、あ、ああ…」

「おい、由希?」


目を見開き頭を抱える由希の姿に、凌空は激しく動揺する。

肩を揺すっても、由希は凌空に気付かない。うわ言の様に言葉にならない声を洩らすだけ。


「由希! どうしたんだよ?!」

「やだ、やだやだ! りく、凌空!!」

「俺は此処にいるだろ?! こっち見ろよ!!」


頭を激しく振り目からは涙を流す由希に、凌空が幾ら呼び掛けても由希は凌空を見る事はない。

違う、何かを見ているようであった。