その男の楽しそうな声で、初めてこの室内に自分達以外の人間がいるのを知り、凌空は驚きながらも咄嗟に由希を背に隠す。


「おっかしーなぁ、まだ思い出さないの? 俺の顔見たら思い出すようにした筈だったんだけど。まっ、いいか! 俺が思い出させてあげるよ」


妖しく口元を歪めたその男は、右手を高く上げパチンッと指を鳴らした。

その音は部屋中に反響し、由希と凌空の耳に届けられる。

その瞬間、二人の頭の中には忘れられていた記憶達が一気に押し寄せて来た。


『キミが桜木由希? おいで、良い物をあげるよ』

『本当?! 由希に何くれるの?』

『キミが…喜ぶ物――』

『由希! 行っちゃ駄目だぁぁ!!』

『えっ、り…――』

『じゃぁ…キミで良いよ』

『り、く…。りく――!!』