「馬鹿な餓鬼だ」


その男は、自らの下で泣き叫んでいる少女を見下ろし呟く。

泣き叫ぶ少女の腕の中には、同じ位の少年がいた。ピクリとも動かないその少年は、まるで死んでいるようだ。


「餓鬼が餓鬼を庇うとはな。本当に馬鹿な生き物だ、人間というものは」


憐れむように溜息を吐いたその男は、黒いマントを翻し、少年を抱きしめながら涙を溜めた瞳で己を睨み付ける少女に笑みを向けた。


「10年後迎えに来る。それまで精々何も知らず…生きるが良い…」


少女達に背を向け歩みを進めたその男は、パチンと指を鳴らした。

その瞬間、少女は少年の隣に倒れ込み、男はそれを背中越しに感じ愉快そうに口元を歪める。

これから10年間、何も知らず幸せに暮らすであろう2人は、10年後己が再び姿を現したとき、一体どんな表情を浮かべるのか。

それが男は楽しみでならない。

不敵な笑みを浮かべ、その場から霧状になって消えたその男の姿を見た者は……
誰もいなかった。