「ごめーん、響。入学金振り込み忘れちゃった」
ペロッと舌を出して、ドジっ子やっちゃいました的な顔をしたお母さん。
一瞬、何の事を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「入学金を振り込み忘れちゃったって……」
「え、ちょ、入学金って……」
ちょ、ちょっと待って……?
入学金を振り込み忘れたって、それってかなりヤバいんじゃ……?
「ごめん、響。合格取り消しになっちゃった」
「うぇええええええっ?!」
ご、ごめんって謝り方、軽すぎやしませんかね?!
私の驚いた声も相当おかしなものになっちゃったけど。
「お母さんっ!どうしてくれるの?!せっかく頑張って自分の成績より高いレベルの高校に合格したのにぃーっ!」
事の重大さを理解した私は、半泣きでお母さんに抗議する。
遊びたいのをガマンして、一生懸命に勉強をした私は、第一志望の高校に合格する事ができた。
私の成績じゃ無理だって、願書提出間際まで言われていたっけ。
安全圏の高校を受けろって言われたけれど、行きたくない高校を受験したって仕方がないもん。
それに今まで頑張ってきたんだから、絶対に合格してみせる!
強い気持ちで、受験に臨んで合格を勝ち取った……。
そ、それなのに、お母さん、入学金を振り込み忘れて、私の努力はパァですか?!
私、一体今まで何を目標に頑張ってきたと思ってんのーっ?!
「ひどいよひどいよーっ!私が一生懸命に勉強してきたの知ってるでしょうにっ!」
「響、落ち着きなさいって……」
「落ち着けるわけないでしょっ?!お母さんは何でそんなにふざけた態度でいられるわけ?!」
普通、もっと取り乱さない?!
やらかしたくせに、何でそんなに落ち着いていられるわけっ?!
「わかってんのっ?!もう、今から他の高校なんて受験できないんだよっ?!」
そうなのだ。
すでに、公立高校の一般受験は終わっていて、二次募集も終了間近。
今から、担任に報告して、受験の準備をするとなると到底間に合わない。
つまり、どういう事か。
お母さんのミスのせいで、私は高校生にはなれないという事だ……。
「私の1年間返してよっ!4月からどうすんのよっ?!」
「落ち着きなさい、響」
今まで黙って、お母さんと私のやり取りを聞いていたお父さんが間に割って入ってきた。
お父さんまで何でそんなに落ち着いているのよ?!
娘の人生パァになっちゃったっていうのにっ!
「お父さんっ!」
「いいから、落ち着きなさい。話を聞きなさい」
そう言って、優雅に茶なんか飲んでいる。
その隣でニコニコと笑っているお母さん。
初めて親に殺意が芽生えた瞬間だった……。
「お父さんの昔からの友達に、高校の先生をやっている人がいるんだ」
「だから何よ?普通の先生が受験に漏れた人を入学させてくれるわけないじゃない!」
「だから、話を最後まで聞きなさい」
お父さんの言葉に、私は口をとがらせた。
「その人の父親が、私立高校の理事長をしている。事情を話したら、入れてくれるそうだ」
「えっ?!本当?!」
「ああ、だから、入学試験頑張れよ」
……え?
今、入れてくれるって言わなかった?
試験はパスなんじゃないの?
「ああ、その学校は試験の成績でクラスが決まるんだ。だから、頑張れ」
「……えええええっ?!」
が、頑張れって……。
とにかく、無事に高校生にはなれるみたいだから、よかった……。
でも、頭をまた受験モードに切り替えなくちゃならない。
入試の結果でクラスが決まるって、どんな学校なんだろう……?
「ちなみに、鳳凰学園高校な」
「鳳凰学園……。って、えええええええっ?!」
私は驚きの声をあげてしまった。
私立鳳凰学園高校。
鳳凰学園は幼稚園から大学まである。
普通科だけでなく、高校から専門教科が学べるところ。
実は、超がつくほど有名な学校なんだ。
そんなところの理事長の息子が、うちのお父さんと昔からの友達……?!