しかし——


 今目の前の男が着ているのは。


「制服ーーーーーーッ!?」


 そう、スーツではなくブレザーだった。


「五月蝿い」


 後ろも見ずに紫音が言う。
 その声音に剣呑さが混じっていたのにも気付かないほど優羽は動転していた。


「で、でも!」

「なんだよ」


 ここで漸く足を止め振り向く紫音。


「学生が制服着てて何か間違ってるか?」

「名刺には、会社の名前が……」

「夜間で通ってる学生でもおかしくは無いだろ」


 確かにその通りだ。
 だが、それはあり得ないことを知っている。


「その制服は華桜院のでしょ!」


 華桜院学園——そこは都内で最も歴史ある由緒正しい学園として全国に名を馳せ、名だたる家の御曹司やらお嬢様が通う、所謂金持ち学校だ。