本番の演奏場所に着いた。
俺はチューバを肩に担いで建物に入った。

そのスピードは・・・かなりゆっくり。


まあこが・・・あんなにちょこまか歩くまあこがちゃんと付いてこれるように。






でも、まあこより早くついてしまった。
俺は、こういうときには行動を早くするから、まあこには会えなくなってしまった。


でも、後ろからあの子供のようなかわいらしい笑い声がかすかに聞こえる。
俺は、このかすかな声は、隣にいる人には聞こえない声なんだろうと思う。


俺にしか聞き取れない・・・まあこの心の笑い声。







「先輩、こんにちは!」
「ん?ま・・まあこ?」

突然まあこが声をかけてきた。
さっきまで友達と喋ってたまあこが・・・


「どうした?」
「ん・・・本番緊張してて・・・」
「緊張なんてしなくていいんだよ、大会のときと一緒だから・・・」


まあこの頬がいつもより赤いような気がした。
俺は冗談混じりで
「俺と話してるから緊張してるんじゃない?」
って言ってみた。


まあこは、さらに頬を赤くして
「そんなこと無いです!」
と、俺の少しいつもより鼓動が早い心臓の近くの胸を叩いた。



でも、俺には確かに
「先輩のせいですよ」
っていう、また俺にしか聞こえないであろう声が、確かに聞こえた。



だから俺は・・・
「ごめんね」
と、返してみた。

返したと同時にまあこがこっちを振り向いて、俺が一番初めに好きになった笑顔で笑い、こっちに向かって手を振っていた。







俺は・・・その手に自分の手が届くように思いっきり手を伸ばした。