慌てて手を引こうとしたら、櫻井さんが俺の手を掴んだ。
「初めてお前から近付いてきたな。」
そう言った櫻井さんの表情は、少し嬉しそうだった。
掴まれた手を強く引かれ、身体がベッドに沈んだ。
同時に櫻井さんは俺に覆い被さってくる。
頭を掠めたのは、やっぱりな、と言う言葉だった。
櫻井さんの手が頬を撫でる。
俺は為すがまま、抵抗らしい抵抗はしない。
「気に食わないな。」
突然、櫻井さんが手を止めて言った。
「え……」
「嫌なら嫌だと言え。俺は人形を引き取った訳じゃない。感情を持て。意思表示をしろ。お前が俺を拒んでも、怒りはしない。お前が思ったことを口にしても、嫌ったりなどしない。」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
意味を理解して、やっと気づいた。
この人は、俺がどんな環境で育ってきたかを知っているんだって。
そう感じたら、自然と涙がこぼれた。
生まれて初めて、俺を見てくれる人に出会えたんだって。
「それでいい。」
俺の涙を拭いながら、櫻井さんは言った。
「今は嫌いで構わない。もっと俺を拒めばいい。だが、お前は俺を好きになる。」