次に櫻井さんが足を止めたのは、高級レストランの前。
「……あの、もしかして」
「ここが目的地だ。」
そう言って櫻井さんは店のドアを開けた。
櫻井さんがウェイターに名前を告げると、すぐに席へと案内された。
店の一番奥。
仕切られた空間が高級感を更に際立たせる。
席につき、櫻井さんが笑う。
「そんなあからさまに緊張すんな。何か嫌いなものはあるか?」
「いえ、特には……」
「そうか、ならいい。」
それから少し無言の間があって、料理が運ばれてきた。
彩りよく作られた料理に、左右に置かれたフォークとナイフ。
フォークとナイフ……
考えてみたら俺、こんな店来るの初めてで使い方分かんない……。
「どうした?」
固まる俺を見て、櫻井さんは首を傾げた。
「あ、えっと……」
「なんだ?」
「これ、どうやって使うんですか……?」
俺が手にしたフォークとナイフを交互に見て、櫻井さんが小さく笑った。
「……何で笑うんですか」
「いや、悪かった。別に馬鹿にして笑った訳じゃない。」
「どう考えても馬鹿にした笑いですよ。」
「まぁ気にするな。それも気にせず、好きに食え。」
櫻井さんには教えてくれる気がないみたいだ。
今度ちゃんと勉強しておこう……。