そもそも、
魔女ってなんだよ。
世の中に
そんなものが存在するなんて思いもしなかった
魔女なんて
おとぎ話や空想上の存在。
そう思って生きてきたんだ、10歳までは......。
この、世にも恐ろしい股間喪失事件が起きなければ、存在なんて知ることはなかった。
けれど、
実際に目にしたり、
会ったわけではないから、
未だに疑念があるというか、
信じきれないでいる。
股間喪失事件から5年が経った今でも、
夢オチを願ってたりするんだ。
......そうなるとめちゃくちゃ長い夢だけど。
余寒が続く春先。
木々は桃色に染まり、舞う花びらが春を感じさせる。
皆急ぎ歩く朝の喧騒を他所に、長閑さをつれて通学路を歩く。
「ふぁ~、ねむー。
にしても、一体何を手掛かりに探せば良いんだろうな?」
「こら、手で覆ってからアクビをしてください!とりあえず、ですね。
この学園に情報屋が居るらしくて、その人物から何か情報を得られるかと思うんですが......。」
「へぇ何だ、簡単ぢゃんーーーん?『が......』ってことは、もしかして難あり?」
怜愛は苦笑を浮かべて頷いた。
「えぇ、実は。その情報屋の顔を見たことのある人間が居ないんです。だから人相が一切分からなくて.....、分かるのはこの学園に居るって事だけらしいんです。」
「うっわーー......前途多難ーー。全生徒・教師・職員合わせたら何人居るんだよ....そん中から情報屋を捜すって....お先真っ暗ぢゃん.......ハァ」
「生徒は除外しても良いかと思いますよ。長年やってる情報屋ですからね。
短くても三年はこの学園に居る人物だと思います。とりあえず当てはまりそうな人をリストアップしておきましたよ。」
そう言って、怜愛はリストを差し出してニッコリと笑った。
「さすが怜愛っ!!だてにオカマやってないな!!」
「......それはそれは。お褒めいただき嬉しい限り。ただ、調子乗ってると.......怒りますよ?」
「ご、ごめんなさひっーー」
今一瞬、般若が見えた気が.....
笑顔なのに目が笑ってない.....
こういう時、怜愛はキレる寸前で、
物凄く恐い。
昔、ある事で怜愛を怒らせてしまい三日間暗い洞穴に閉じ込められた。
おかげで狭い暗所が少し苦手になった。
どうも"オカマ"というワードは地雷らしい。
怜愛いわく、"オカマ"ではなく"おネェ"らしい。
「ーーーせーつらっっ!!おはようさんー!!」
突然軽快な声と共に背中をど突かれた。
声の主に振り向けば、鈴原夜斗が立っていた。
「いった.....おま、よるっ!朝っぱらから何すんだよー」
こいつ、鈴原夜斗、
あだ名は"よる"
おれの幼なじみ。
幼少期からの付き合いで、おれが元男だと知っている。
気の知れた数少ない友人だ。
「へへ、ちょうどせつら達が見えてさー、飛ばしたぜー!
あ、怜士さんもおはようございます!
今日もお美しいですねー!せつらには負けますけど」
「ふふふ、棒読みですがお褒めの言葉に免じてスルーしましょ。
当たり前です。
せつらさま以上の美少女なんてこの世には存在しませんよ。
ましてやワタクシなんて足元にも及びませんよ」
「ははっ、言えてますね。」
また始まった。
この二人は仲が良いのか悪いのか分からない。
褒め合ったと思えば、
何故か嫌味の言い合いをし始めるし.....
「二人ともー先行くよー」
「せつらさまっ、お待ちくださいっ!」
「あ、せつらー、婚約者を置いてくなよー!」
「ちょっ、ここでそれを出すなよー!勘違いされるだろっっ!!」
実はよるは親が決めた婚約者だったりする。
ただ生まれる前の約束だから、同性だったって事ですでに解消済み。
なので"元婚約者"だ。
「ん?何だアレ」
学園の門の前に大勢の女生徒が立ち尽くしている。
皆一点を見つめて頬を染め、黄色い声を上げている。
「なぁ、どうしたんだ?」
よるが近くの女生徒に声をかけた
「え?あー、なんかアメリカからの留学生が入学して来たみたいで.....あ、ほら!んもう、すんごいイケメンなのよ!!」
女生徒の目線を追うと、
平均日本人高校生の身長、頭二つ分ほどは高い人物が見えた。
背が高いだけでなく体格もまぁまぁ良いみたいだ。
ブラウンの髪にブルーの瞳、均等の取れた整った顔をしている。
その男は、不意にこちらを振り向いた。
目が合ったと思うと、それはすぐに逸らされた。
「へー、確かにイケメンだな。でも俺の方がイケメンだろ?せつらー?」
「ふふふ、その自信はどこから湧くのでしょうねー、せつらさま。」
「へ?あ、あー....男に戻ったらおれのほうが確実イケメンだろっ!」
「こら!せつらさまっ!!お言葉にお気をつけください!」
「あ....ごめん」
ーーーさっき、
目が合った一瞬、何かを感じた気がした。
なんだろう.......
気のせいだったのか........?
。。